昔は大腿骨頸部内側骨折・外側骨折と言われていた!!(笑)
現在の研修医や医学生の方にはなじみがないでしょうが以前は大腿骨近位部骨折(頸部・転子部骨折)は大腿骨頸部骨折とひとまとめに呼ばれておりました。開業医の先生から電話連絡で紹介されレントゲンを確認するまでは大腿骨頸部骨折なのか?大腿骨転子部骨折なのか?わかりませんでした。治療方針が異なるので、頸部骨折なのか転子部骨折なのかは重要な問題です。
大腿骨転子部骨折は関節外骨折で転子部の血流は良好ですので、骨接合術で骨癒合が得られます。一方の、大腿骨頸部骨折は関節内骨折で、転位型骨折では大腿骨頭への血流が途絶するため、人工関節への置換術が標準的な治療となります。転位が少ない場合や若年者の場合は骨接合術を選択することもあります。
最近は大腿骨近位部骨折と両者をまとめて呼称しますが、頸部骨折、転子部骨折と呼び名が定着し治療方針が解りやすくなりました。
疫学
大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症を背景に、転倒など軽微な外傷で生じる骨折です。2012年のデータでは日本で138,100例の発生数と報告されてます。70歳以上になると急激に発生率が上昇します。大腿骨近位部骨折は寝たきりやADL低下を生じ、生命予後も悪化することが知られております。治療としてはほとんどが手術療法で除痛、術前のADLや歩行能の獲得を目指すことになります。
早期手術の有用性
高齢者に生じる大腿骨近位部骨折での臥床期間は予備能力の低い高齢者では1日の臥床でもADLが著明に低下し寝たきりの危険性があがります。早期に手術を行い、もとのADLに戻すことが重要です。
欧米では受傷48時間以内での早期手術群が手術が遅れた群と比較して生命予後がよかったと報告されてます。
Early operative intervention is associated with better patient survival in patients with intracapsular femur fractures but not extracapsular fractures
Steinberg EL et al:J Arthroplasty. 2014 May;29(5)
日本でも大腿骨近位部骨折の早期手術の有用性は報告されてますが、医療体制からすべての病院で早期手術を行うことは困難です。
大腿骨近位部骨折に対する緊急整復固定加算 4000点
2022年4月の診療報酬改定から
大腿骨近位部骨折に対して、受傷から48時間以内に整復固定を行った場合に骨折観血的手術(K046)に緊急整復固定加算が算定できる。
大腿骨近位部骨折に対して、受傷から48時間以内に人工骨頭挿入術(K081)を行った場合に緊急挿入加算が算定できる。
診療報酬でのインセンティブがないと早期手術は進まない!
現在の医療体制は、整形外科、麻酔科、手術場、病棟ともギリギリの体制で回っている状態です。大腿骨近位部骨折の患者さんが搬送されても、予定手術で手術場の枠は埋まっており、麻酔科医もギリギリの人数で麻酔管理を行ってます。早期手術をした方がよいことは皆がわかってますが、マンパワーの不足で1週間ほど待機させてしまうこともしばしばあります。診療報酬のインセンティブを付けることで、経営者側からもメリットがあり、人員の確保を行い診療体制を整えることができます。4000点すなわち、40000円の加算によって、患者さんのADLの改善、生命予後改善が望めます。40000円の増収によって、病院全体の環境も改善されることを望みます。
医療従事者の懇親的な対応だけでは燃え尽きてしまいます。やはり経済的な支援が必要です。
施設基準 意外と厳しい・・
厚生労働省に施設基準のスライドがありました。
施設基準としては、前年度に大腿骨近位部骨折の手術症例が60例以上が必要ななようです。ある程度の救急病院でないと施設基準に達しないでしょう。小中規模病院などに分散させるのではなく、地域の急性期病院に外傷センターのように症例を集めて、手術を行う方向性で厚労省は考えているのでしょうか?救急病院は今でもマンパワーギリギリでやっている状態です。これ以上症例が増えても勤務医をはじめ、スタッフの疲労がこないか心配です。加算の分、人件費やマンパワーが増えることを祈ってます。
日本では小規模病院でも大腿骨近位部骨折の手術をしているケースが多いですが、そのような病院では算定が取れないでしょう。なかなか厳しい基準だと思われます。